
チェコの東部に広がるモラヴィア大草原
チェコの東部には見たこともないような大草原が広がっています。5月の新緑の時期に訪れることができれば、数え切れないシャッターチャンスに恵まれることでしょう。
モラヴィア大草原への道
プラハからモラヴィア地方までは高速道路を使いGoogle Mapsのナビ上(※1)の計算では約2時間半。私のモデルプランの場合は世界遺産のチェスキー・クルムロフから約3時間半となります。途中にチェコ第二の都市であるブルノがあり、世界遺産のトゥーゲントハット邸を含む多くの見どころがあります。しかし、少しでも早く撮影候補地の確認を始めたかったので、ブルノを越えてスロバキア方面にあるキヨフという町まで移動します。途中に迷うような分岐はありません。
高速道路に入るまでの普通の道であっても、魅力的な景観に溢れているのがチェコの魅力でもある。
それにしても私の出発地であったチェスキー・クルムロフからキヨフまでは一般道と高速道路を使い約300キロあるのですが300キロというとほぼ東京ー名古屋間の距離です。この距離を3時間でというのは無理があります。しかしその謎は高速道路に入ってすぐに分かりました。チェコの高速道路は制限速度が時速130キロなので、それを加味した時間だったのです。
日本の高速道路をイメージしてチェコの高速道路に乗ると、その流れの速さに恐怖を感じるかもしれませんが、道はよく舗装されており、直線が多いので慣れてしまえば問題ありません。
ちなみにチェコの高速道路には料金所はありません。「ヴィニエット」と呼ばれるステッカーを途中で購入してフロントガラスに貼り付けておけば良いというルールになっているようですが、レンタカーの場合はレンタル料金の中に高速料金が最初から含まれているという旅行者にとても便利な仕組みになっています。
また、途中にサービスエリアやセルフ式のガソリンスタンドも多く、支払いもVISAカードが使えるのでその点は安心です。スタンドの前に車をとめて、給油をして、スタンドの番号をレジで申し出れば決済が進んでいきます。ただしプラハを離れると英語はほとんど通じませんので注意が必要です。
今は高度成長期なのかチェコの高速道路は本当に工事が多くて驚きました。工事の内容として舗装はあまり見かけず、車線拡張が多く、利用している人々は東西に延びた国土をつなぐ大動脈が日に日に太くなっていることを実感していることでしょう。
快適とは言え、外国でのドライブは慎重に。サービスエリアには積極的に入って、休憩がてら周辺に広がる街の景色を撮影してみよう。
2時間超が経過したところでブルノを示す標識が増えてきますが今回は立ち寄らないのでそのまま進みます。さらに30分ほど進んでいくと、次第に夕焼けに美しく色づいた地形が波打ってくるのが分かります。まさにジェットコースターのような緩急の激しい道が次々と現れきて自分がついに憧れのモラヴィア地方に足を踏み入れたのだという実感が高まってきました。
キヨフに到着したころ時刻はすでに20時を過ぎようとしており、辺りが薄暗くなってきました。5月のチェコの入りは遅く、21時すぎになってようやく夜を感じるような暗さになります。また、日の出は早く、4時半くらいには日が昇ってきてしまいます。
大草原の上を走る長大な電線。景観としてはマイナスなのかもしれないが、この美しい景観の中で人々が文化的な生活を送っている象徴でもある。
機材 本体 α7R、レンズ SEL70200G 撮影データ 焦点距離200mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/125 大草原を貫く幹線道路。巨大なトラックも小さな存在に見えるスケール感はこの地ならでは。「もや」と夕日の光が産み出す奥行き感を表現することを優先して露出を設定する。RAW現像前提で露出アンダーで撮影しておき、現像ソフトCapture OneによるRAW現像時にその場の雰囲気を思い出すための適正露出付近の写真を別に撮影しておくと作品作りがはかどる。この際にはJPEGだけで十分なので、カメラ内のHDR撮影やダイナミックレンジオプティマイザーを積極的に活用したい。
このままキヨフ駅に向かって予約していた駅前のホテルにチェックインしても良かったのですが、ある目的がありキヨフを少し通り過ぎてミストジーンという小さな村に向かい、そこから伸びていた一車線の細い農道を進んだ場所に車を止めました。
車を降りて丘陵を駆け上がり太陽が沈む方角を見た時、思わず足が止まりました。驚いたわけではなく、あらゆる要素が完全な被写体を目にして、自分が動くとその完全性が破綻するかもしれないというある種の畏怖を感じたのです。偉大な野生動物を見守るようにゆっくりとカメラを構えて写真を撮影しました。私が導かれるようにこの場に来たのは偶然ではありません。その理由は最後にご説明します。
キヨフに宿泊するメリットは、モラヴィア大草原の核心的なエリアに車を使って30分でたどり着けることです。ブルノに宿泊してしまうと1時間前後かかるため不便です。しかしキヨフにはホテルが少なく、プラハやブルノと比べると内装や設備も質素なので、私のように撮影が目的ということでなければ、ブルノに宿泊した方が良い場合もあります。なお、近年はモラヴィア大草原が観光地として注目されつつあり、キヨフの宿は早めに満室になります。現に私も「Hotel Club」は一泊しか予約が取れませんでした
サラリーマンであれば直前まで休みの予定が決まらない可能性がありますが、最安航空券と違ってホテルの場合は一定の日数前まではキャンセル料がかからないところが多いので、出来るだけ早めに予約をいれています。
機材 本体 α7R、レンズ SAL24F20Z 撮影データ 焦点距離24mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/40 レンズは24mm単焦点を使っています。16mmを使うと太陽が小さくなりすぎて雰囲気が失われます。35mmにすると草原の広さが伝わりにくくなります。手前に丘陵に太陽光が遮られているため、前景の光量は十分ではありません。空と地上の光量差を減らすために、色に影響を与えず上半分を通過した光量だけを低下させるハーフNDフィルターを使っています。ハーフNDフィルターを使うことで、夕日のオレンジ色に夕景はオレンジ色という考えが一般的ですが、オレンジと夕景の時の青色は格別の美しさです。夕日のオレンジ、空の青、草原の緑の色のバランスがこの写真のポイントです。
ホテルのカウンター。現地としてはかなり遅い時間帯ではあったが、親切に対応して貰うことができた。
キヨフにはシングルルームはないので、一人でいく場合は割高にはなるが、日本円で一泊5千円から8千円あれば十分良いホテルに宿泊できる。※2015年1月の為替前提
5月のチェコの日の入りは遅く、21時すぎになってようやく夜を感じるような明るさになります。一通りサンセットの撮影を終えてようやく宿泊先の「Hotel Club」に到着しました。田舎町なのでこの時間にはほぼ全てのお店が閉まっており、ホテルのバーでマスターにカフェ・ラテを作って貰い、カウンターで売っていたスナック菓子を食べて夕食代わりにしました。
プラハの朝焼けに始まって、チェスキー・クルムロフを経由してようやくキヨフに辿り着くという長い一日が終わりましたが、チェコの5月の日の出は早く、4時半くらいには日が昇ってきてしまうために、どんなに遅くとも4時には起きなければなりません。
キヨフに宿泊するメリットは、モラヴィア大草原の核心的なエリアにレンタカーを使って30分でたどり着けることです。ブルノに宿泊してしまうと1時間前後かかるため不利です。しかしキヨフにはホテルが少なく、プラハやブルノと比べると内装や設備も質素なので、私のように撮影が目的ということでなければ、ブルノに宿泊した方が良い場合もあります。なお、近年はモラヴィア大草原が観光地として注目されつつあり、キヨフの宿は早めに満室になります。
サラリーマンであれば直前まで休みの予定が決まらない可能性がありますが、最安航空券と違ってホテルの場合は一定の日数前まではキャンセル料がかからないところが多いので、ホテルについては出来るだけ早めに予約をいれています。
二日目は大草原の探検
ホテルで仮眠を取って、まだ暗いキヨフの街を抜け出して、モラヴィアの朝焼けを撮影、、、と思っていたのですが、起床したのは8時。疲れがたまっていたのか8時間も寝てしまいました。幸か不幸かその日の朝は雨だったので、ホテルでゆっくり朝食をとって、残り4日間の撮影に備えました。
重いレンズを背負って朝から晩まで活動していると、心身の負担は相当なものになります。撮影旅行の際には天気予報をこまめにチェックして、不利な条件が見えている場合は、思い切って休むことが重要です。経験上、疲労が限界まで達すると、激しい下痢と嘔吐を繰り返して悪寒が止まらなくなる症状が発生しますが、この場合はお風呂でひたすら温かいシャワーを浴びて体調の回復を待ちます。早ければ翌日、遅くとも1日半で回復しています。
ホテル前は日中でも車通りも少なく、安心して運転できる。犯罪に巻き込まれる危険性は感じなかったが、外国なので夜間の外出は避けた方が良い。そもそも夜空いているお店はない。
朝食を食べた後は、霧雨の中でキヨフの街並みを散策しました。絶景が目前にあるにしては観光客の少なさに驚きます。モラヴィア地方はチェコの中でも一大観光地だと思っていましたが、さすがにキヨフまで訪れる人はまだ少ないのかもしれません。しかし観光客が少なくてもキヨフにはホテルが少ないために満室になるころが多いのは先述の通りで、私も「Hotel Club」は一泊しか予約がとれませんでした。
お昼前になって雨が上がったところで、ホテルをチェックアウトして撮影候補地の調査に出発することにしました。キヨフを出発して南側に進んでいくと、ミニチュアのように可愛らしい小さな街が数キロおきに点在しており、その左右に沢山の細い農道が伸びています。
街のすぐ外には大草原が広がっている。観光客から見れば大草原に見えるが、地元の住民にとっては農作物の畑であることが分かる。
緩急があまりに激しいため、トラクターが「谷」に消えて見えなくなることもある。この美しい大草原の殆どがこの地に住んでいる人々によって人工的に作らたものだと知ったときには本当に驚いた。
どこから撮影しても絵にになる美しい街並みが点在している。目立った観光名所があるわけではないが、歩いているだけで安さかな気分になるので、車を降りて自分の足で歩いてみよう。
最初は農家の方々が使っている私道だと思っていたのですが、キヨフ駅の近くのお店で買った地図と照らし合わせると、その一つ一つが公道であることが分かりました。草原の丘陵地帯を取り囲むように環状に走っている幹線道路を縦横無尽に結ぶこの農道の全体像を把握することが、絶景を撮影するためにどうしても必要になると考え、雨天の中で探索を続けていると、小高い見晴らしの良い場所に出ました。
展望の目的なのかは分からないが、草原のど真ん中に車を駐車するスペースが所々にあるので、そのスペースを探し出すだけでも楽しい。
機材 本体 α7R、レンズ SEL70200G 撮影データ 焦点距離113mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/200 展望スペースは小高い丘にあることが多いので、草原を俯瞰する構図の写真が撮影出来る。
機材 本体 α7R、レンズ SEL70200G 撮影データ 焦点距離200mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/200 雲の影を活かすことで、緑一色の写真に階調を与えて「味」を出すのも面白い。
360度にモラヴィアの大草原が広がります。そして地平の彼方に台風の目の下のように雨が全く降っていない不思議なエリアがあることに気がつきました。不思議なこともあるものだなとしばらく眺めていると、そのエリアはスポットライトが動くようにこちら側に少しずつ移動してきていることに気がつきました。もしかしたら面白い写真が撮影できるかもしれないということで、構図を決めた上でその瞬間を待ちました。
程なくしてそのスポットライトが私の真上を遠すぎていき、再び私の足下には雲の影がかかり、狙った通り大草原のある場所にスポットライトが移動した瞬間に写真を撮影しました。わずか数秒後には写真の奧で輝いている草原の場所にも雲がかかってしまい、再び一帯は雨となりました。
機材 本体 α7R、レンズ SEL70200G 撮影データ 焦点距離200mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/300 シャッターチャンスは一瞬。構図決めに使える時間が限られているときのために自分なりの定石を持っておくことも重要になる。私の場合は、丘陵の織り目が中心部に構図を定石としている。織り込むところから先は急斜面になっているため、その奧と手前でコントラストを作りやすいと想像した。さらに草原全体の広さを表現するために、空を大きく取り入れた。
人間には気象や時間を動かす力はありませんが、気象や時間が変わることを待つことはできます。ツアーを組んでしまうと、この「待つ」という撮影にとって最も重要な行為ができなくなります。個人旅行はツアーよりも高くつくことも多々ありますが、代えがたい魅力があります。
「待った」甲斐もあって、自分なりに納得のいく写真が撮影出来たので、この日の残りの時間はロケーションハンティングに集中しました。撮影値として核心的な地域であるキヨフからミストジーンの一帯は地図上では広大に見えますが、1日あれば十分に土地勘をつかめる規模に収まっています。
ロケーションハンティングの途中、時間帯や天候によって表情が大きく変わりそうな被写体・構図を見つけたときには、Google Mapsを使って、いまいる場所を長押しして「★」をつけるようにしています。「★」をつけることでナビで簡単にその場所に再訪することができるようになります。
複数日程があれば、その日の中で待ち続けることもできますが、翌日や翌々日に再訪するという自由度も生まれますので、撮影が目的であれば、同一カ所に複数日滞在することをお勧めします。
草原本来の緑の美しさを引き出すために、日中撮影時にはPLフィルターは必須。頻繁に脱着するものなので、汚れが付かないように気をつけることと、撮影前後の汚れ確認は必須。
PLフィルターを使うことで、時間帯によっては空の青さも強調できる。曇天の時には効果が殆どでないが、そのような場合でも頭の中でPLフィルターを効かせた時の姿を想像できるようにしておこう。
日差しの強さや角度によって草原の色も変化する。人それぞれの「ベスト」があるのが写真の面白さでもある。
広い寝室。清潔で安心して眠ることができた。宿に戻ったらすぐに機材の動作確認とメンテナンスをする必要があるので、広いお部屋であれば、機材を展開しやすいメリットがある。
自炊できるようにキッチン設備も充実している。現地で食料を調達できなかったときのために、二日から三日分くらいのカップ麺やフリーズドライの食品を持参することにしている。
お風呂やトイレの設備も素晴らしい。撮影主体の旅では宿は寝るだけのものと考えてしまうが、これらの設備が汚いと余計なストレスになるので、寝るだけとはいえ、安すぎる宿はやめておいたほうが良い。また機材盗難のリスクを避けられる。
この日のホテル「Penzion Régio」でした。広いお部屋にキャンセルが出て、一泊当たり10ユーロ程度でアップグレードしてくれるということだったので、試してみました。広いお部屋と言われていたとおり、スイートルーム並の広さで一人ではとても使い切れませんでしたが、機材の整理や、最終日のリバッグがしやすかったので、恩恵はありました。雰囲気も「Hotel Club」より明るく、どちらか空いているのであれば、私は「Penzion Régio」をお勧めします。
撮影3日目。本番スタート。
撮影ポイントも把握できたので、今日からが本番です。撮影ポイントを把握した後は新しい場所には行きません。その日の天候によって計画を大きく変更することもありますが、基本的に一日に二箇所から三箇所に撮影ポイントを絞って、良い構図を見つけます。
一帯は回りきれないほど広大ではありませんが、網の目のように農道が伸びており、何箇所も回ろうとするとそれなりに時間をとられます。ここぞというポイントを見つけた後は、その場所に一日のうちに何度も訪れ、自分にしか撮影できない瞬間を切りとるという意気込みで臨みましょう。逆にそのような気持ちになれないのであれば、それくらいの価値しかない撮影ポイントなのだと自分の判断材料にしています。
道幅は細く入り組んでいるが、交通量は多くないので安心して運転できる。
緩急が激しい地域なので、燃料を予想以上に使ってしまっていることがある。燃料の残量には注意しよう。
周りを見渡してみると、あの方角から撮影できれば良いのにと思うことが多い地域だが、そこまで車でたどり着けない場合もあるので、必要に応じて徒歩で移動する。
私は今回撮影ポイントを二箇所に絞りました。この二箇所はかなり近接しており、いずれもキヨフから南に移動してすぐのところにあるミストジーン村の付近にあります。一箇所目は二箇所目からキヨフに戻るときに目に入る広大なお花畑です。ミストジーン村の奧に農業用の航空機のための空港があるのですが、村と空港の中間の一面が広大なお花畑になっているのです。一見、地図上では行きかたが分からなかったので、私が長時間撮影の為に食材を買っているcoopという生協のようなお店で聞いてみたところ、隣のミロティツェ村に向かう道の途中に分岐があって、そこからお花畑が見える場所に出られるはずだという情報を頂くことができました。この時にはチェコ語しか通じなかったので、お互い地図を指さしながらの確認でした。
地形からして影の出来方によって表情を変える景色ではないと思ったので、午前に一箇所目の撮影を切り上げてから、PLフィルターを使って青空が映えるお昼過ぎの時間帯を選んでお花畑に向かいました。
地平まで続く黄色いお花の絨毯。写真を撮影されることを事前に考えながらレイアウトしたかのような一本の木。そして空の青さと空を覆う美しい雲の表情が、お花畑の美しさをいっそう引き立てていました。
撮影データ 焦点距離137mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/100 機材 本体 α7R、レンズ SEL70200G 望遠ズームSEL70200Gのテレ端200mmでの撮影だったので、本来は手ぶれ補正をオフにして三脚を立てて撮影をしたいシーン。雲が激しく動いており、狙った陰影が終わる寸前だったので、手ぶれ補正をONにして、車中から手持ちで撮影した。
撮影後に車から降りて三脚をセットして撮影したのですが、30分以上粘っても1枚目を超える写真は撮影できず、後日また撮影しに来た時にも良い写真は撮影できませんでした。風景写真であっても状況によっては、スポーツを撮影しているかのように一瞬を大事にしなければならないと改めて感じました。
最終日は核心エリアでひたすら粘る。
モラヴィアでの撮影もいよいよ最終日。すでに十分すぎる「戦果」は得られている状態でしたが、私が通い続けている一箇所目の撮影ポイントでは、依然としてイメージしていた写真を撮影できないでいました。天候も良好。雲の表情も多様なのですが、狙った表情になってくれません。こればかりは運に左右されます。この一箇所目は、実は初日にサンセットを撮影した場所でした。かわいらしい小屋が目印になっている場所で、ミストジーン村から西に伸びている農道からたどり着けます。
機材 本体 α7R、レンズ SEL70200G 撮影データ 焦点距離200mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/100 望遠ズームSEL70200Gのテレ端200mmでの撮影だったので、本来は手ぶれ補正をオフにして三脚を立てて撮影をしたいシーン。雲が激しく動いており、狙った陰影が終わる寸前だったので、手ぶれ補正をONにして、車中から手持ちで撮影した。
私がモラヴィアに撮影に行こうと思ったのはモラヴィアで撮影された一枚の写真がきっかけでした。山のような斜面を駆け上がる草原の写真を見たときに、私もこの場所で写真を撮影したいと思ったのです。その後、写真を撮影したのがポーランドのカメラマンであるKrzysztof Browko氏であることが分かり、直接コンタクトをとって、激励とともに撮影地の大まかな情報を教えて頂くことができました。それがこの一箇所目の場所です。
機材 本体 α7R、レンズ SEL35F28Z 撮影データ 焦点距離35mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/125 この撮影ポイントは35mmのレンズでも広角の魅力的な写真を撮影できる。一日いても全く飽きない。
機材 本体 α7R、レンズ SEL70200G 撮影データ 焦点距離200mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/13 望遠レンズで夕暮れ時に撮影すると全く異なる表情になる。K&Bパブリッシャーズの「絶景の旅」で扉写真に採用して頂いた写真。
狙った瞬間が訪れるのを待っている間、見上げた空の美しさも心に残っている。
そういう意味では初日で目的は達成していたのですが、撮影するなら自分なりの「味」を加えてみたいとも思っていたのです。
絶景と呼ばれる場所に行ってみると、想像していた素晴らしさとは違うと感じることが多々あります。絶景に出会うために重要なことは訪問する時期を選ぶことです。四季のある景観であれば尚更ですが、そうでない場合でも写真や映像でみた絶景がいつ頃に撮影されたものなのかは撮影前に可能な限り調べます。
そして時期よりも私が大切だと思っているのが「光」です。天から降り注ぐ光は、朝と夕方の時間帯には秒単位でその強さや色が代わり、被写体の形によって、影の形はめまぐるしく変化していきます。ここに雲と風が加わり、景観に無限の可能性が与えられます。その結果、時には想像していたよりも凡庸な姿となり、時には事前に見ていた美しい写真や映像の感動をさらに超える絶景へと姿を変えます。
訪問する時期とは異なり、太陽と雲と風は人間の力では変化させることができない要素です。しかし前に紹介したシーンの時のように、人間にはこれらの要素が変化をするまで「待つ」ことができます。
そして待ち続けて、「その時」がやってきました。モラヴィア草原の究極の絶景と呼ぶに相応しい一瞬の姿です。海の如く波立つ美しい地形。駆け抜ける風になびく緑の絨毯。太陽と雲が作り出した陰影。偶然という言葉で説明しきれない、自然が作り出した芸術です。
機材 本体 α7R、レンズ SAL135F18Z 撮影データ 焦点距離135mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/30 お気に入りのSA135F18Zを使い、通常よりもかなり横長にトリミングをすることを前提に構図を決めた。トリミング前の写真は、左手に見える車道のすぐ上に奧にある丘陵が写っており、さらにその上には空が広がっている。奧にあるものを大胆にトリミングすることで、車道が写真の遙か上まで繋がっているというイメージを意識して撮影した。
私が前に述べた「味」とは「雲の影」でした。ポーランドのカメラマンはサンセット時に太陽と地形が産み出す陰影で作品を作り上げていましたが、私は日中の日差しが強い時に雲の影で陰影を作る表現でこの地の美しさを表現することで彼の激励に応えたかったのです。
私が特にこだわったのは「影の形」と「影の強さ」です。二日目の写真のような大きな雲が作る影は、影がかかっている部分と、そうでない部分で二分された表情を作り出す魅力があります。しかし、今回の構図の写真では一枚の写真の中に、多様で繊細な陰影を取り入れたいと考えていました。
これには複雑な条件が同時に成立する必要がありました。最も簡単な条件は時間帯です。影の面積が広がり過ぎないようにするため、太陽が高いところまで登る時間帯で撮影します。次に風向きです。構図の左から右に抜けていく雲の動きを作る風向きが理想的です。この時期は安定してそのような風向きになっていたように思います。
そして最も重要で運頼みなのが雲です。形状は塊感があるものよりは、ちらばり過ぎず、まとまり過ぎない必要があります。ちらばり過ぎると、写真に落ち着きがなくなり、まとまり過ぎると上記の二分された表情になってしまいます。雲の厚さも重要です。雲の厚さが薄すぎると太陽光を遮光しきれず影が薄くなり、コントラストが低下するため、メリハリのない写真になります。
機材 本体 α7R、レンズ SAL135F18Z 撮影データ 焦点距離135mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/50 数秒後の写真です。少しだけでも陰影が変わることで、全く異なる写真になる。0.5EVから1EV程度露出アンダーで撮影しておくことで、影の部分の階調を後から復元しやすくなる。
機材 本体 α7R、レンズ SAL135F18Z 撮影データ 焦点距離135mm、ISO100、絞り F8、シャッタースピード 1/100 数十秒後の写真。非常に繊細な表情。3枚とも甲乙をつけられず、全て掲載することにした。
これらの条件を全て満たしても、自分の好みの表情になるかどうかは運頼みなので、足繁くこの場所に通いました。非常に長い時間撮影したはずなのですが、この場で写真を撮っていた観光客はいませんでした。あの場にいて記憶に残っているのは、見渡す限りの大草原の緑と青い空、吹き抜けていく風によってこすれる葉と葉の音、風が運んでくる土と草の香りです。限られた人生の中で、あのような素晴らしい時間を過ごせたこと、そしてその美しさを自分なりに納得する形で収めることが出来たことは本当に素晴らしい経験でした。
欧州に旅行に行く際にチェコという選択肢は、フランスやイタリア、スペインなどと比べるとまだまだ一般的ではないかもしれません。そしてモラヴィア草原ともなると、実際に訪れたことのある日本人はほんの僅かだと思います。しかしここまで壮大で緩急のある大草原は、世界中でもモラヴィアでしか見ることができない稀有な絶景です。プラハやチェスキー・クルムロフはもちろんのこと、このモラヴィア草原の美しさを多くの方に知って頂きたいです。
- 1日目
- 成田からプラハへ
- 空港でSIMカード購入
- 空港からレンタカーでホテルへ プラハ泊
- 2日目
- レンタカーで早朝にストラホフ修道院へ
- 修道院前の広場で撮影
- ストラホフ修道院撮影
- 修道院前の広場で撮影
- ペトシーンタワーで撮影 プラハ泊
- 3日目
- レンタカーで早朝にストラホフ修道院へ
- 修道院前の広場で撮影
- プラハ城で撮影
- 市内撮影 プラハ泊
- 4日目
- プラハからチェスキー・クルムロフへ
- チェスキー・クルムロフ撮影
- キヨフへ移動 キヨフ泊
- 5日目
- キヨフ撮影
- 6日目
- キヨフ撮影
- 7日目
- キヨフからプラハへ
- 8日目
- 成田着